第10章 マッチ売りの少女…12月31日♥
「は……?…えっ…あ…の、私…か、家族が心配して」
話が噛み合っていない、が。
「僕にも名前をつけてよ。 サラちゃんの好きなものの名前をつけてよ」
唐突な彼の言葉に驚いたサラが、ぽかんと口を開けたまま青年を見つめた。
「な、名前…?」
「犬が好き? ドギーはどうかなあ?」
「いいいぬ?」
「サラちゃん、よく野良犬を撫でてたからさ」
(どうしてそんなことを知っているのかしら)
青年は首を傾げてサラの答えを待っていた。
「……いくらなんでも、名前が犬は…ちょっと……名前、ないんですか」
「そうだよお。 サラちゃん、クリスマスのプレゼントは何だったの? 名前はそれがいいよ」
「………」
あっけに取られていたサラは青年から視線を外して俯いた。
(クリスマスプレゼントなんて、もう何年もらってないわ…)
「くまのぬいぐるみ? それともリボンをつけた女の子のお人形……新しい髪飾りにオルゴール? ツリーの下のプレゼントは何だったのかなあ」
サラが驚きに目を見開いた。
それらはかつて、家族が生きていた時に彼女がもらったものだったからだ。
昔、イブの朝に起きたサラは、ツリーの下にあるいくつものプレゼントの箱に歓声をあげた。
その際におばあさんが言ってくれたことを思い浮かべた。
『クリスマスのプレゼントはサラが良い子にしていた証拠だよ。 神様はちゃあんと見ていてくれてるんだからね』
おばあさんが亡くなり、お父さんと二人きりになったはじめの年も、サラはもみの枝やヒイラギの葉のリースを飾り付けてクリスマスを心待ちにしていた。
しかしその日の朝、サラが運んだ小さなツリーの下には何もなかった。
その瞬間、彼女はあれらが家族からのプレゼントであったことを初めて理解したのだった。
そして今年もサラにプレゼントは贈られなかった。
(あれからプレゼントがないのは…きっと私が、良い子じゃないから……)
彼女は悲しい気持ちで膝の上の手を握りこんだ。