第10章 マッチ売りの少女…12月31日♥
「キミィ、いい加減にしたまえ。 その子が困っている」
通りがかりの、体格の良さげな紳士がサラたちの元へ近寄ってきた。
非難めいた目で青年を咎めているようだ。
サラはほっとして、感謝と期待の目を紳士に向ける。
それにも関わらず、青年は紳士を丸っきり無視をしたので、サラはまた戸惑った。
「おい、キミ」
「…あ? 死ねよ」
後ろから青年の肩をつかんだ紳士と彼の前にいたサラは、その瞬間、声をあげずに息を呑んだ。
青年はチラと紳士を睨んだが、その目…彼の視線はまるでナイフの先かなにかのように鋭く、それはサラが未だかつて見たことのないような、むき出しの憎悪そのものだったからである。
「…チッ」
その様子にひるんだ紳士は舌打ちをして後ずさり、踵を返してその場から離れていく。
サラはその場で立ち尽くした。
「…ねえ、サラちゃん」
教えてもない名前を呼ばれて、少女の肩がビクッと大きく揺れる。
青年が元の笑いを顔に張り付かせて馴れ馴れしく話しかけてくる。
「こんな所にいたら凍え死んじゃうよお。 一緒においでよお」
「………」
「寒いでしょお? お腹が空いたでしょうお? 僕についてきなよ」
────ふらっ、と一歩。
サラが顔を強ばらせたまま青年に近付いたのは、年端もいかない少女の本能的な恐怖からだった。
「いいねえ………僕の名前はね…ふふ…どうしようかなあ」
サラの腕をつかんで引き寄せた青年がそのまま歩き始める。
「っあ…」
大きな歩幅で半ば引きずられそうになったサラはよろけた。
青年は歩きながら、時々そんなサラを振り返っては「ふふふ」と笑い続けるのだった。