第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
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それから数日が経過したある日、妹は洗い物から手を放し、昼空に浮かぶ白い雲を見上げた。
「ふう、無駄足だったわねえ。 急遽アンナ姫の婚姻が早まるなんて………残念だわ」
と、姉がポツリと呟く。
良い天気だったので、姉妹は洗濯をするために家の外に出ていた。
「………」
妹の────彼女の部屋にはあの日にアンナ姫から渡されたシンデレラの『忘れ物』がある。
小さな懐中時計は父親の形見のひとつだった。
純銀製の時計は決して安物ではなかったので、これをアンナの元に置いて帰れば、彼女は見過ごさないかもしれないとシンデレラは見越したのだろう。
この国はさほど豊かではない。
アンナ姫が嫁ぎに向かった先は、位は低くとも事業が成功しており裕福な家であることが分かった。
『目が見えなくなるこんな体で、身分違いの恋を貫く………そう出来るほど、私は愚かではありません。 なによりも、私は立場あるものとして、私の家族や国の民を愛していますから』
アンナが別れ際、妹に向けて言ったことだ。
彼女が放つ儚げな印象とは裏腹に、その内面の強さに妹は驚かされた。
けれどももしも。
あの時にシンデレラが家にいてアンナ姫と顔を合わせていたのなら。
もしも、彼女を無理やりでも引き留めてシンデレラと話を交わせていたのなら。
────結局、彼女と入れ違いになって、塞いだ様子で家に帰ってきた弟を思い出すたびに妹は思うのだ。
いつかほとぼりが覚めたら。
シンデレラが大切にしていたあの時計を彼に返そう。 妹はやるせない気持ちになりながらも心の中でそう決めていた。