第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
「ありがとうございます………ですが、私はもう行かねばなりません。 ではどうかこれを、シンデレラ様にお渡しください」
妹が手のひらほどの、装飾が施された小さな箱を受け取った。
「………? お城に戻られるのですか」
ぐるりと周囲を見渡して妹は尋ねた。
アンナ姫は季節に合わない外套を羽織っているし、加えて、馬車に積んである荷物が気になったからだ。
アンナ姫が少し迷うように瞳を彷徨わせた。
「いいえ…もうこちらには滅多に戻って来ません」
妹は彼女の目の空色が他に見たことがないほど薄いのに気が付いた。
「………では、私はこれで」
妹に告げたなりに背を向けようとするアンナ姫の手を、慌てて取って引き留める。
「ちょっと待って。 とにかく、あの子と話して欲しいわ。 だから来たのでしょう? 弟に会いに」
「こら、お前。 姫様に気安く触るな」
「あなたこそ触らないでちょうだい」
アンナ姫の傍にいた、従者らしき男が二人の間に割って入ろうとしたのをぴしゃりと払い除けた。
その後にアンナ姫を見据える。
口には出さなかったが妹は『ここで逃すともうシンデレラと会えないのでしょう。 それでもいいの?』そんな思いをこめた。
(だってこの人ってば、『行かなければならない』所にちっとも行きたくなさそうなんだもの)
シンデレラと同様、はたから見ても彼女の反応は分かりやすいぐらいだった。
アンナ姫は手首をしっかりと握られたまま、目を落として困ったように眉を寄せた。 そして、ふと口角を上げて笑顔を浮かべた。
「どうにもならないことです。 私は彼に届け物をしに来ただけなのです………不躾かも知れませんが、シンデレラ様には私が直接ここに来たことは内緒にしておいてください」
「っだけど」
妹の口から漏れかけた言葉をアンナ姫は遮り、身体を寄せて彼女にだけ聞こえるように声量を下げた。
「………」
無言のまま妹が手を離すと、アンナ姫は優雅にドレスの端を取り一礼をする。
「どうか、ご家族ともに今後ともお体にご自愛くださいませ。 ごきげんよう」
彼女が上品な微笑みを浮かべて馬車に乗り込んで去っていく────妹はその様子を見送りながら、何とも言えない表情を浮かべていた。