第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
そんな感じで二人は慌ただしく家を出て行ったのだが、
「無事にアンナ姫に会えたのかしら………」
ほう、と妹が小さく息を吐き、それから遠くを見る。
シンデレラが嫉妬とは。 元々が平和主義者で穏やかに(上から目線で)人と接し…なにしろ「来るもの拒まず去るもの追わず」が彼のやり方である。
(あんな弟を見るなんて初めてじゃないかしら)
妹が考えごとに耽っている中、外からトントン、というドアを叩く音が聞こえた。
業者に食材を注文していたことを思い出し、戸口に向かう。
「はあい、お願いしていたお野菜────…」
妹が扉を開けると、そこには数人の男性たちが横に並んでいた。
黒塗りの立派な馬車が彼らの背後にある。
屋根のない背の低いタイプの馬車が多い中、馬が四頭も繋がれていた。
先に馬車から降りた年かさの女性に手を取られ、長いベールで顔を隠した美しい若い女性が地面に足をつける。
妹は舞踏会の際、弟の動向と周りの噂で知っていた。
「あ、アンナ姫様………?」
あの場でごちそうに食らいついてはいても、妹はぬかりなく家族の様子に気を配っていた。
シンデレラとアンナ姫のことを姉に報告したのは妹の仕業である。
彼女はぎこちない足取りで妹の前に立ち、目線をさげておじぎをした。
いかにも線の細い、深窓の令嬢、といったアンナ姫の風情だった。
「突然申し訳ございません。 本日は私は」
「し、シンデレラは今居ませんが、なんなら、ええと? 家の中でお待ちになりますか」
(それとも見た目だけの、実はド貧乏な家ってバレたらやばいかしらね?)
この姫とシンデレラはやんごとなき関係らしいし。と、妹は考えを巡らせる。
「………ご不在ですか?」
アンナ姫の顔がさっと陰ったのを見て取り、妹が両の手のひらを顔の前でぶんぶん振る。
「あ、あっ。 でも、すぐに帰って来ます。 どうぞ、中へ!」
そもそもあの子は姫様に会いに行ったのですから。 そう付け加えようとし、アンナ姫の表情がどことなく悲しそうに変わったのを不思議に思った。