第2章 みにくいあひるの子…旅の途中で
それでも何にしろ、自分は何でもするとおばあさんと約束をしたのだ。 彼は意を決して何度も川に潜った。
彼女の言葉通りに、オオカミは水底で見つけたナマズを岸に引き摺りあげた。
二メートル越えのそれをぶらさげて崖を登った。
途中、彼の息が切れてそのたびに動けなくなった。
ナマズの尾ビレを咥えた歯や、岩で擦りむいた爪から血が滲む。
(どうやらおれは、今までかなり楽をして生きてきたらしいぞ)
オオカミはおぼろげに理解した。
夜もとっぷり暮れた頃に、オオカミは家路についた。
「お前の言う通りだ。 生きることは戦いだからなあ」
夕食の用意をしながらおばあさんが教えてくれた。
暖かいナマズ鍋が彼にはとても美味しく感じた。
満身創痍の彼だったが、今までないぐらいたくさんのご飯を食べた。
「聞けばホレ。 お前はオオカミとしても人としてもまだまだ未熟なんだろう。 服を着たからといって、他人に認めてもらえると思うなよ?」
食事中におばあさんが彼に話してくる。
彼女の言うことはもっともだとオオカミは思った。
しょせん自分は世間知らずの非力なオオカミであり人間だ。
「真弥、待っててね。 おれ、きっと立派になって迎えに行くから」
晴れた夜空を見上げオオカミは固く誓うのだった。
………そんな調子で月日が過ぎていった。