第2章 みにくいあひるの子…旅の途中で
翌日は晴天だった。
朝早くから、急な山道を二人はひた歩いていた。
正しくは山道というよりも、瓦礫の傾斜を岩から岩へとピョンピョン跳んでいた。
(何だこの人、動物並みの運動神経だ)
妖怪なのかな。 オオカミが考えながらおばあさんの後ろをついていく。
道のてっぺんに着き下を見下ろした。
断崖絶壁の底に、川の濁流がゴウゴウ音を立てて渦巻いていた。
素晴らしい景観に感心したオオカミがおばあさんに話しかけた。
「おばあさん、絶景スポットだね」
「こっから魚を取ってきてくれ。 川の底にしょっ中悪さをしてるオオナマズが棲んでる」
「はっ!?」
空耳かと思ったオオカミが思わず聞き返した。
「里に降りてきては水路を荒らすんでね、困ってるんだよ」
ふー、と眉間にしわを寄せて腕を組むおばあさん。
「いや、でもこれ落ちたら死」
崖下をおそるおそる覗き込む彼の言葉を遮りおばあさんが聞いてくる。
「もしもお前の大事なおなごがここで溺れていたらどうする?」
「それなら、助けるけど………?」
「じゃあとっとと行ってこい」
おばあさんは後ろからゲシッとオオカミを蹴った。
オオカミは「わあああー」と悲鳴をあげながら真っ逆さまに落ちていった。
派手な水しぶきをあげて川に突っ込んだ彼は、グルグル回りながら流れに呑まれ、それでも必死に手近な岩にしがみついて乗りあがる。
「ゲホッゲホッ…し、死ぬかと思っ…」
オオカミが水を吐きながら咳込んだ。
「オオナマズを捕まえたら家に戻れよ! 晩飯にするからなあ!! これも生活のためだ。 ハッハッハ!」
おばあさんは大声で笑った。
そしてくるっと背中を向けたと思うと彼の視界から消えた。
「ウソでしょ……」
その場で呆然と立ち尽くすオオカミだった。