第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
「ほんのわずかな触れ合いでも、相性というものは即座に感じ取れる。 それは、目に見えるものだけではなく。 今、俺が初めて気付いたことです。 こんな陰鬱な月明かりの下でさえ。 貴女が姫であろうと、なんの関係もない」
逡巡するように視線を彷徨わせ、アンナは自分のぼやけた視力でも分かる、すぐ目の前の美しい男を見つめた。
先ほどのキスを彼女は思い返していた。
目を閉じて唇を押し付けてくる彼は強引だったが、その直前に、触れるか触れないかの距離でシンデレラは彼女に熱っぽい視線で、それと分かる温度で、尋ねたのだ────その口付けに自分は応えた。
彼の熱が身体を包み込むようにまとわりつく。
「………どうぞこちらへ」
アンナは踵を返すと俯いたままシンデレラの先に立った。
彼女は何も言わなかった。
バルコニーからは下階へ降りる外階段があり、アンナが先に連れ立って歩いていく。
アンナのドレスのレースがふわふわと揺れる様を、シンデレラは後ろからじっと観察していた。
彼女が歩くたびに聞こえる衣擦れの音に耳を傾ける。
やがて暗いバルコニーの外廊下に立った。
客室らしき室内はしんと静まり返っており、アンナは引き戸をカラカラと開け中へと入った。
アンナはシンデレラの手を取らず、そのままベッドの方へと誘導する。
そして彼を先に上らせようとし、その直前に自らの体をシンデレラに寄せてきた。
アンナの息遣いが耳元で聞こえてくるような気がする。
同時にかすかな、いかにも上質そうな芳香も。
香りの元を存分に嗅ぎたいものだ。 シンデレラがそんなことを考えているうちに彼女の声が耳元に届く。
「少しの………間でしたら」