第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
微かな楽団の音が室内に響き渡っていた。
そのささやかな音楽をこっそりと盗み、二人はなんの気兼ねもなく、密やかに身体を寄せて揺らした。
アンナは彼のリードに身を委ねながら、クスクスと小さな笑みを浮かべていた。
(………この女。 どうやら触れなば落ちんということもなさそうだ。 この俺を前に一歩も引く気配がない…ああ、そうか。 目が悪いし暗いから…)
「………どうかしまして?」
彼女の声に我に返る。
シンデレラはどこか腑に落ちなかった。
まるで相手の視力がないと自分という存在は大したことがない、そう思わされる気がしたからだ。
それを誤魔化すためにシンデレラが苦笑した。
「失礼。 どうやら少々緊張しておりまして。 情けないことに」
「まあ…ふふふ。 とてもお上手ですわ」
アンナは指先まで優雅な仕草で彼と踊りながら、再び笑顔を浮かべた。
そんな風に、彼女がふうわりと笑った時、シンデレラはアンナに引き込まれた。
その微笑が静かに囁くかのようで。
(お上手、ときたか。 フ…やれやれ)
音楽が止み、アンナがすっと手を外す。
「素敵なひと時を、ありが」
シンデレラはくいと彼女の背中を引き寄せ頬を手のひらで包んだ。
そして、彼を見あげたアンナに口付けた。
瞬きとも思われる後、すぐに口を離したシンデレラに、アンナは動揺するわけでもなくわずかに咎める視線を寄越す。
「………私は、軽はずみにそんなことをしていい人間ではありません。 これは貴方のために」
それに答えず、シンデレラが壁に手をつき再び彼女の唇を奪った。
そのまま深い口付けを交わすうちに、アンナはどこか諦めたように瞼を閉じた。
顔を離した彼には微かに情欲の光が宿っていた。
「俺のためというなら心配は無用。 どうやら今日のランチにも出されたスッポンがなかなかの効用で」
「スッポン?」
アンナがきょとんとした表情を返す。
「ああ、いや」視線を逸らしたがシンデレラが軽く咳払いをした。