第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
「どうぞ、私と一曲───とお誘いしたいところですが、まだ音楽を楽しめる時間ではありません。また、人混みにも多少疲れてしまいました。もしよろしければ、あちらで涼みながらお話ししませんか?」
と、丁寧に女性に話しかけた。
シンデレラの完璧な所作に口を挟む者は誰もいない。
「え、ええ………分かりましたわ」
伸ばされた手をぎこちなく取って、シンデレラたちはバルコニーの開放された扉から外に出た。
薄明かりが漏れる広いバルコニーには、室内の喧騒を離れた場所にいるような、どこか秘密めいた雰囲気が漂っている。
開放的な空間が心地良い風を運んできて、その場にいる人々を静かに包み込んでいた。
「良いのですか」
女性は控えめな様子でシンデレラに尋ねた。
「何がです」
「あの女性たちが………今にも刺しそうな勢いでこちらを見ています。 貴方のお連れの方ではありませんの?」
女性がちら、と声のする室内を振り返る。
彼女の髪やドレスの裾が夜風にひるがえっていた。
「フフ………俺…私はああいう嫉妬のたぐいが苦手でして。 相手の性格を見分けるのにちょうどいい。 ところで貴女のお名前を聞いても?」
簡単な自己紹介のあとにシンデレラが問うと彼女はアンナと申します、と答えた。
「………貴方は今まで人を好きになったことがないのかしら。 それとも、自分は棚にあげて、お相手の嫉妬を厭う身勝手な殿方の、どちらのタイプかしら?」
柵に手を付いて夜の景色を眺めるシンデレラの後ろで、アンナが口を開いた。
「男にはどちらも厳しい質問なのだろうが。 そんなものは自分でコントロールすべきかな。 一人前の男ならば悪感情なんて表に出すものじゃない」