第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
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姉弟たちは一張羅の正装に身を包み、迎えの馬車を待っていた。
ピッタリとしたスーツに身を纏った弟は、今宵は特に美しく、隣に立つことさえも気が引けるほどだった。
この姿ならば会場にいる紳士淑女たちの前でも、決して恥ずかしくないだろう。
(けれど何にせよ、舞踏会よねえ? 単に見目がいいだけでは心許ないわ)
当日の晩になり、先に家の戸口に立った姉は今さらのように心配そうな表情を浮かべた。
「そういえば、貴方って今も踊れた?」
「ン…不便ないと思うが。 昔、大義姉さんから教わったことだし。 小義姉さんは?」
シンデレラは屋内にいた妹を振り返る。
ついと彼女の手をとった弟が、その場で軽やかなステップを刻み始めた。
妹は戸惑っていた。
「私は踊ったことなどないけど、ついていけばいいのかしらね?」
「俺の後に…そう。 ここで右足を出して…二拍後にターン、そうそう」
元々運動神経の塊の妹である。
あっという間に部屋の隅から隅へ。
クルクル回って楽しそうに弟と踊り始めた。
楽しそうに………と、動きが段々と高速になっていき、しまいに目で追うのも難しくなる。
カッカッカッ、一拍数える間に三度踵を鳴らし、弟の手から離れその場で宙返る。
再び手を取りポーズを決めたらギュルルルンと回転しだし、弟について高速のターン。
(………何なんだろう、これ)
姉はぼんやりとして二人(の残像)を遠くに見ていた。
「ははは。 さすがは姉君だ」
「うふふ、踊るのって楽しいわね!!」
「これはこれは………素晴らしい」
「………誰、あなた」
戸口には見知らぬ紳士が姉と並んでその光景に見入っていた。
「通りがかりの行商だ。 気にしないでくれたまえ」
はしゃいで踊る姉弟の、これを数百年後。
普通の人間用に改良され、はるか欧米の南でタンゴと呼ばれ生まれ変わったとかなんだとか─────。