第9章 閑話シンデレラ…舞踏会編♥♥
シンデレラは、香り高い香草で味付けされた芋を丁寧に切り分け優雅な動きで口に運んだ。
「ほう…舞踏会?」
「そうよ。 来月に開かれるお城の舞踏会へみなで行かなくて? 貴方も今年成人を迎えたのだから、そんな場にも慣れないと」
「別にどこだろうと慣れなぞは必要ない。 俺が臆することなど有り得ないのだから。 これも姉君たちの教育の賜物だ。 感謝している」
彼は眩しく微笑んだ。
「まあ、シンデレラったら。 今なら熊だって二人で倒せるものね」
感極まったように口に両手を当てる妹であった。
「………」
学問は姉から。
体術は妹から。
異様に飲み込みの早いシンデレラは、今や彼女が読めない学術書までスラスラと読めるようになった。
だが一方で、弟はなんというか。
………ぶっちゃけ、かなり傲慢な人間に育ってしまったようにも思える。
姉は感謝されても心から喜びきれない自分の感情について考えながら、言葉を加えた。
「なんでも舞踏会では、名だたる令嬢や年頃の美しい姫様も姿をあらわすとか………?」
フォークを持つシンデレラの手が止まる。
そうは言っても、姉は悩んでもいた。
有り余る魅力や才能を持ちながらも、贅沢できらびやかな世界に興味を示さず、慎ましい性格も弟の美点である。
(私が浅ましすぎたわ。 弟を利用して良い家柄の人間と関係を持とうだなんて)
小さく息を吐き、「この話は無かったことに」というと「いや」とシンデレラが姉を押しとどめた。
「美しい女性が待っているのなら、俺が行かないのはそれこそ無作法というものだろう」
額に指先を添え、悩ましげに首を横に振る。
そんなシンデレラを眺め、
(やっぱり私は彼の育て方を間違えたかもしれない)
姉は思うのだった。