第8章 ラプンツェル…少女の物語♥♥
どれぐらい時間が経ったのか。
ガサガサと、木の奥の方から唐突に音がした。
それから、子供の声。
「あーあ。 せっかくいい感じだったのに………人の血で汚されちゃったねえ」
「だっ……誰!?」
ひょこっと顔を出し、彼女の前に現れたのはマドカよりいくぶん年上らしい、少年と少女のようだった。
「あら、この人間、私たちが見えて? まだ子供だからかしら」
彼らは透けそうに薄い、変わった服を着ていた。
月光にきらめく銀色の生地。
背格好や顔立ちは幼いのに、その口調や表情は異なっている。
「今どきはよほど清い心でないと僕たちの声は聞こえないし、まして姿なんて………ああ、ここに棲んでる同胞の魂の匂いがするね」
「よ、妖精………?」
マドカが口にすると彼らは礼儀正しく頭を下げた。
「そうだよ。 はじめまして」
「人間と話すのなんてどれだけ振りかしら………緊張するわね」
彼らは自分の足元に倒れているフリンのことなど気にも留めなかった。
「………消えて」
マドカの視界に、隠すように地面に置いてあった植物の鉢植えが目に入る。
「うん?」
「ラプンツェルなんてものと一緒に、私の目の前から消えて!! あんた達のお陰で、お父さんもフリンも死んだんだ!」
「ほう………なるほど? これは見事な」
「八つ当たり………? フフフッ、初めて見たわ」
「………っ」
怒りに震えるも、クスクス笑い続ける彼らにはマドカの話が通じそうもなかった。
少年の妖精がおもむろに木を見上げた。
洞の近くにひと際大きな赤い花の蕾があり、よく見るとそれはほのかに光っているようだ。