第8章 ラプンツェル…少女の物語♥♥
足音と声が遠のいていく。
先ほどから動きにくいと思っていたら、自分の手や体が小さくなっていることにやっとマドカが気付いた。
(フリン………っ)
いっそ飛び降りる勢いで梯子につかまり、大急ぎで下に駆け下りていく。
幹にもたれるように、フリンが大木の根元の隙間に足を投げ出して座っていた。
血を出しているのは明白で、それも、マドカが今まで見たことない量の。
「フリン!!! 嫌だよ、起きてよ!!」
目を閉じている彼に飛びつき、大声で呼び掛ける。
「マドカちゃん………? やっぱりだ。 きみは…その方が………可愛」
薄く目を開けて笑おうとした彼が顔を歪める。
肩や腹の傷口らしき所から次から次へと血が滲み広がっていく。
刃物かなにかで刺されたのだと思った。
(ああ、これ以上出ていかないで!)
心の中で叫びながら、手のひらを傷にあてマドカは必死にそれを止めようとした。
「………っ…」
フリンが覚束ない動きでマドカの手を探っていた。
彼女の視界の中のフリンは彼女の目を見ていなかった。
「お父さ…も…僕も、きみを………」
両手でフリンの手を握り、彼の口に耳を近付け、細くなってくいく声を聞いた。
なにか言わなければと思うも彼に掛ける言葉が見付からない。
その代わりにフリンの頬にポツとマドカの大粒の涙が落ちる。
「あ…い、して……」
彼の口の端が薄らとあがり、その直後、フリンの全身から力が抜けた。
「ふ、フリっ………」
僅かに目を開いたまま、彼はピクリとも動かなくなった。
「やっ……置いて…置いてかないでよおおお!!!」
マドカがフリンに縋り付いて叫んだ。
揺すっても揺すっても彼は動かなかった。
「フリン……うわああああ………っ!!」
少し前まで笑っていた彼だった。
抱えきれない悲しみをかき消したくて、マドカは大声で彼を呼び続けた。