第8章 ラプンツェル…少女の物語♥♥
「チッ────手こずらせやがる………」
「周辺の住民から話には聞いております。 モノはどこにあるんです!」
誰かが追われているような物々しい雰囲気だった。
ドン、と振動がして下を見るとマドカがいる木の幹に背中をつけたのはフリンだった。
「言った、だろう? そんな…都合のいい奇跡の植物なんて………ないと」
見た事のない男が二人、彼の向かいに立った。
走っていたにしろ、フリンの呼吸が荒いようにみえる。
マドカが彼を呼ぼうとしたが、
「王位は欲しくないのか? 王子様は」
太い男の声でとどまった。
「欲しくないねえ………僕は兄弟で殺し合いなんかしたくないし、そしたらいいのかい? もし僕が王様になったら、キミらはどうなるか」
憎々しげな表情で男が押し黙る。
口を挟み損ねたマドカは息をするのも忘れて固唾をのんだ。
「くっ…」
「おい、感情的になるな………これはこれは失礼、王子。 ですが国は最近の飢饉で、前代未聞の飢餓に陥っています」
「そ、そうですな。 此度の王子の働き如何では王より格段の待遇を受けられますよ」
「ハハッ! 天災などなくとも、うちの貧しさなんて日常茶飯事だろ」
気のない投げやりな口調でフリンが応えた。
会話の中のフリンはマドカが知っている彼ではなかった。
おそるおそる、彼に呼びかけてみる。
「フ、フリン………?」
「マドカ、来ちゃダメだ!!」
きつく怒鳴られるも、彼だと分かってマドカはさらに外へ体を乗り出した。
「フリン? あの話は私、作り話だと………違う…の?」
「………もちろん作り話さ。 きみもここでの………今までのことは全て忘れるんだ。 いいね?」
「フリン………」
フリンはマドカを見なかった。
木に登ってくる様子もない。