第8章 ラプンツェル…少女の物語♥♥
苦笑した彼がそのまま話を続ける。
「ちょうどそれから一ヶ月もたたずに、きみの家にならず者が押し入ったんだ。 その時に、死に際のお父さんに立ち合った僕がここへ追ってきた」
雨音に混ざるフリンの静かな声が響いていた。
「『ここにいれば、妖精様がマドカを守ってくれているはずだ』とお父さんは言っていた。 僕もこの場所で、泣き疲れて眠っている小さなきみを見るまでは、信じられなかったけど」
マドカは気が優しく風変わりだった父のことを思い出した。
家から歩いて一晩もかかるこんな場所を彼はどこで知ったんだろう。
「まだ小さかったし、どうやって生きてたなんて覚えてないよ。 それに、妖精なんて馬鹿げてる」
「そうかな。 きみの成長が異常に早いのもおかしな話だよ。 今のきみはどう見ても大人の女性だ。 この洞穴は年中寒くも暑くもないし、不思議な場所だね………あのラプンツェルと同じに」
ラプンツェル。
マドカはあの植物が好きになれなかった。
色んな人間があれを求め、時には奪いにきた。
フリン曰く、両親の所に押し入ったのもラプンツェルが目当ての者だったとか。
(だとしたらあれは呪われた食べ物だ)
木を揺らす風の日も、鉢花が凍りそうに星が瞬く寒い夜も。
ラプンツェルはみずみずしい緑の葉を輝かせて庭に生えていた。
それはまるで雨風や霜や雪の方から、ラプンツェルを避けているかのようだった。
「………僕の国の土地は延々と続く荒野でね」
考え事をしていたマドカが顔をあげた。
「また作り話?」
「そう」
にっ、と口の端っこを上げるフリンを見ながらマドカも小さく笑う。