【ONE PIECE】海賊王と天竜人の娘は誰も愛せない
第1章
昨夜の甘い疲労感のせいでベッドで寝惚けているわたしの頭を、ひと撫でして朝方に船へ戻ったロジャーさんとお別れしたあの日から、一ヶ月が過ぎようとしていた。
少しも色褪せることのない、わたしの大切な思い出。今になっても鮮明に思い出せる。恥ずかしくて、頬は熱くなってしまうけれど。
幸せそうな表情を浮かべているらしいわたしを見て、店主もどこか嬉しそう。本当に優しい人ね。
そんなある日。
幸福感に浸りすっかり忘れてしまっていた現実が、わたしを追いかけて、迎えに来た。
『お迎えにあがりました。ご無事で何よりです、────宮』
当時の海軍大将や中将が、多くの海兵を連れて島に来てしまった。
島民たちは何隻もの軍艦の着港に驚き、さらにわたしが天竜人であることに驚いていた。そしてゆっくり、戸惑いを隠せない困惑した青い顔で、島民たちはわたしに向かって地に膝をついた。
嗚呼…知られたくなかった。
初めは観光客として、次は酒場のアルバイトとして。少しずつ島に溶け込んでいったわたしがまさか、一般市民なら誰もが跪かなければならない神に等しい存在、天竜人であるなんて。きっと、誰も想像していなかったはず。だから、皆一様に戸惑っている。
ちらりと目を向けた先。わたしがアルバイトをしている酒場の優しい店主も、店先で地に膝と額をぴったりとくっつけて、震えていた。
その光景に、鼻がツンと痛む。
『……見逃していただきたかったわ』
『…申し訳ありません。こちらも、命が惜しいもので』
お世話になりましたと、地に膝をつく島民たちに深く、静かに頭を下げてから軍艦に乗り込んだ。
後ろ髪を引かれる。名残惜しい。けれど迎えに来られたからには、戻らないわけにはいかない。
両親にわたしが死亡したという嘘の旨を伝えさせてもよかったけれど、そうなるときっと両親、いえ、マリージョアの住人である天竜人が黙っていない。なにか大事が起こる前に、この島のためにもわたしが降参するしかないと思った。