【ONE PIECE】海賊王と天竜人の娘は誰も愛せない
第1章
『……ロジャー、さま』
『ん!?わははは!おいおいよしてくれ、どっかのいいとこの令嬢か?嬢ちゃん!』
豪快にカウンターを叩いて笑う彼の明るさに、わたしは恋に落ちてしまった。
初めての恋。高鳴る心臓がずっとうるさくて、頬や耳がすぐに熱くなって、彼の顔をよく見れない。目が合うとすぐそらしてしまう。
閉店間際に彼が店を出るとき、もう帰ってしまうのかと、明日も会えるかしらと胸がぎゅっと締め付けられるような痛みが襲ってきて…わたしは知った。ああ、これが恋。その人を思うあまりに会えない時間が恋しくて、恋しくてたまらない気持ち…切ないという感情。
───でも、彼は海賊。
わたしは、天竜人。
天と地ほども差のある身分だと、わたしの種族は大声で笑うはず。
彼もきっと、人を物としか見ていない天竜人の血がわたしの体に流れていると知れば、こうして笑ってくれなくなるかもしれない。
それでも…初めて知った恋という心、感情。
マリージョアに留まり、両親が決めた天竜人である婚約者と結婚してしまっていたら、知ることができなかったかもしれない、素敵な想い。
彼に、嫌われたくない。
世界中に嫌われているわたしが言えることではないけれど、彼には、彼にだけは、………はあ、なんて苦しいの。つらいわ。
嗚呼…
天竜人なんて身分も、この血も、すべて捨ててしまえたらいいのに。
名前を教えてもらった日から、ロジャーさんは気さくにわたしに話しかけてくれるようになった。お店にも毎晩来てくれる。会えて嬉しい。わたしに笑いかけてくれる彼との時間は、心から幸せに思う。
ある日ロジャーさんが言った、航海の休息がてらこの島に立ち寄っただけだという話を聞いた時は、ああいつか帰ってしまうんだと胸がズキズキと痛んだけれど。ポジティブに考えれば、広い広い海の中でこうして出会えたことは運命とも言える。
……でも、でもやっぱり、寂しいわ。
彼が店に通うようになって、一週間がすぎたある日。彼はグラスの中のお酒を揺らしながら、未来を見据えるような瞳で、言った。
『明日、この島を出る』