【ONE PIECE】海賊王と天竜人の娘は誰も愛せない
第1章
その日から、わたしに頭を垂れる人たちに触れようとは思わなくなった。
善意だと思って声をかければ、近寄れば、酷い目にあうのはわたしではなく一般市民の人たち。わたしが原因で起きたことならわたし自身が罪人であるも同然なのに。どうして、どうして、あんなにも小さい、わたしと変わらないほど小さな子供が……。
『いい?よく聞くアマス。私たちは世界の創造主の末裔、神に等しい天竜人。あなたも同じ、神の子アマス。下界の下々民に触れれば、こんっなにも清く美しいあなたの手が穢れてしまうアマス』
『…お、かあ、さま、…てが、』
『あなたもいずれ、天竜人の殿方の元へ嫁ぎ神の子を産むのアマス。我が子を抱くときにこの手が汚れていては、生まれてくる子が可哀想でしょう?』
わたしの手を大切そうに包み込む母の手が、泥のようなモノで汚れて見えた日。
わたしは、このマリージョアを出ようと決めた。
20歳も目前となった頃に天竜人の婚約者とお見合いし、婚約パーティーが開かれる前日。
分厚くおかしな服を鬱陶しく脱ぎ、おかしな形の髪型もやめてすべて下ろし一本で結わえ、ほんの少しのお金、と言っても一般市民から見れば大金であろうお金を懐にしまい、両親からわたしに与えられた奴隷たちに譲ってもらった服と薄汚れたマントを身につけ、婚約パーティーでの護衛で訪れていた海兵たちの助力を得てマリージョアを静かに脱走した。
その際、心優しい海兵たちにもうひとつ頼んだことは、わたしの元にいた奴隷たちは全てマリージョアから逃がすこと。他の天竜人とは違い、奴隷と呼ばれている彼らのことを友人のように思いながら普段接していたためか、別れを告げた時には『どうかご無事で』と泣きながら言ってくれる人もいた。…わたしも少し、涙ぐんでしまった。
これで本当に、思い残すことは何もない。
マリージョアを離れても、後悔なんて微塵もない。
いつも着ているおかしな服装ではなく、一般市民に溶け込めるような服装でたどり着いた最初の島、シャボンディ諸島は、いつもよりなんだか、ひどく恐ろしく輝いて見えた。
自由。解放。初めて実感できたような気がした。