【ONE PIECE】海賊王と天竜人の娘は誰も愛せない
第1章
心当たりは、たったひとつ。
相手も、たった一人。
まずい、と。
冷や汗が全身に張りついた。
何もかも、わたしが自ら下界へ下りてしてきたことが、すべて知られてしまう。
『…お、お母様、違います!違うんです、きっと何かの間違いでっ』
『お黙り!言い訳はいらない、さっさと答えるアマス!その腹の中にいるのは誰の子アマスか!?』
鬼のような形相で、母はわたしのベッドを強く叩いた。
視界の端では医師が数歩後ずさり、壁際で震えながら俯いている。
怒りのままにわたしを睨みつける母に、わたしも医師と同じように震えた。ここまで怒った母も、震えるほど母に睨まれることも、生まれてから一度もなかったから。
きっと、逃げられない。
母からは、絶対に。
嘘なんて、つくだけ無駄だと悟る。
震える唇を開くけれど、喉が引きつって思うように声が出てこない。歯がぶつかりあって、ガチガチと音が鳴る。
『……優しい、方…自由で、おおらかで、何にも囚われない、』
───わたしに、恋を教えてくれた素敵な人。
『っ…結婚前の、生娘が、…人間と交わっただなんて…!なんてふしだらなっ…』
怒りで顔を歪めて、ギリギリと握りしめたベッドの掛け布団を母は勢いよくわたしから剥いだ。
冷や汗でじんわり濡れた体に冷気がまとい、ぞわりと鳥肌が全身を覆う。
『堕ろすアマス!』
『っ…ぃ、いや、』
『堕ろしなさい!堕ろしたらまだ許してやるアマス!!』
『嫌ですッ!!!』
咄嗟に口をついて出てしまった、拒否の言葉。
まさか妊娠してしまうとは、わたしも、ロジャーさんも思っていなかった。
…望んでも、いなかった。
ただわたしの人生の思い出にと、夢の欠片をロジャーさんからいただいただけ。
でも、…それでも、宿ってしまったの。わたしのお腹に。
好いて、一度だけと共にしたあの夜に、特別な命がわたしの、マリージョア以外の世界を知らなかったわたしのお腹に宿ってしまったの。
わたしの子供。
あの人との間にできた、正真正銘のわたしの子。