第12章 激怒させた男爵家
既に、熱を加えられた後の様な色。
「ミア?何か気になるのか?」
「えっ?あ、アレを見ていたの。」
指さしたのは蟹。
「あぁ、アレは鎧ガニ。鎧の様に固い殻をしているから、殆どのヤツは手を出さない。」
「殻が固くて剥けないから?」
「そうだ。中々ハンマーでも・・・なぁ、ミア。ひょっとしてだが・・・アレも美味くなるのか?」
私の意図を察してしまったらしいマーフィス。
「でも、固い殻なんでしょう?」
「ウチにある鋼のハンマーなら砕くことは簡単だ。ってことで、リチャード。次はアレを頼む。」
慌てる私だったけれど、マーフィスに宥められて購入する事になった。いいのかな・・・鋼のハンマーを蟹を食べる為に使うのは。
この後、私たち町の北部にある牧場へと来ていた。この世界の牛もカラフルだった。肉やミルクは同じだけど、毛並みがカラフル。ただ、模様はなく単色。
グラタンやクリームコロッケを作りたい私は、マーフィスにお願いして購入してもらった。勿論、乳製品も欠かせない。
ホクホク顔で喜ぶ私だったのだけど、賑やかな声が聞こえたかと思うと私を突き飛ばし隣りにいるマーフィスに抱き付こうとした何処かの貴族令嬢。私を突き飛ばす時、睨み付けることも忘れない。
でも、マーフィスが助けてくれて事なきを得た私。今、私はマーフィスのマントの中に抱き入れられている。
「大丈夫か、ミア。」
「う、うん。ありがとう、マーフィス。」
そして、私を突き飛ばした令嬢はというと・・・私たちの目の前で尻餅をついてポカンとしたままマーフィスを見上げていた。
「良かった、俺のミアに怪我なんかなくて。心配だから、あまり俺の傍から離れるなよ?」
「う、うん。」
令嬢はいいのか?いい・・・あっ!?
私を抱いたまま、マーフィスは冷めた目で令嬢を見下ろした。激おこだ。
「俺の嫁を突き飛ばしたな?」
「よ、嫁?」
「したよなぁ?」
「嘘・・・よ、嫁なんて嘘よっ!!マーフィス様は、私の伴侶になる方だもの。あの目障りな女は婚約したし、私がっ・・・ヒイッ!!」
令嬢はマーフィスの更に怒りを込めた顔を見て、小さく悲鳴を上げた。しかし、そこへ声を張って割り込んで来たのはズードジアご一行だった。
そう言えば、この令嬢・・・容姿が似てる。吊り上がった目元や瞳の色。それに亜麻色の髪も全てにおいて。