第10章 薬草採取と報せ
国境の砦を守備する兵士たちは、戸惑っていた。確かに、王女からのマーフィスの足止めの指示は出ていた。だが、それとは別に王太子からは何もするなと命令書が出ていたらしい。
どちらも王族。しかし、上官の判断で王太子の方を尊重することにしたらしい。マーフィスは特級錬金術師の為、その証としてのペンダントで出入国出来る。
私には身分証などない。家からも捨てられ、身分などなくなったからだ。今更になって、不安が募る。
「心配するな。俺と共に行動するなら、同行者一人は俺と同じ扱いだ。それと錬金術師の国で、正式に婚姻の書類を作成しよう。そうすれば、身分証を作ることが出来る。」
「そ、そうなの?」
「そうしてしまえるほど、特級錬金術師は特別なんだよ。だからこそ、特級錬金術師を手に入れようと画策するヤツらが後を絶たない。因みに、特級錬金術師は毎年輩出される訳じゃない。アリオンと俺の間の年には、誰もいなかったからな。」
本人の資質もあるのだろうけれど、師匠という言う人が凄いのでは?一度、会ってみたいな。
「マーフィスは凄いんだね。」
「俺としては、あのパンを作るミアのこの手も凄いと思う。」
マーフィスの凄さとは比べ物にはならないと思うけど、気持ちは嬉しい。何事もなく、国を越え貨物車を魔法鞄から出したマーフィス。
私たちがそれに乗り込もうとした時、二人組の兵士に呼び留められた。マーフィスが二人を認識し、私を背に隠した。
「まだ、何か用か?」
「個別に聞いて欲しい話しがある。悪いが別室に来て貰いたい。」
「断わる。」
即答のマーフィス。しかし、マーフィスは想像していた様で、兵士の二人が私たちを挟み込んだ。
「どうやら、お前たちはさっきの兵士とは違う主がいるらしいな。」
「話しが早くていい。その女を置いていけ。お前だけならこのまま行かせてやってもいい。」
「そう言えば、あの愚者もいたな。だが、返事は変わらん。ミアは俺のものだ。ホラ、行けっ!!」
更に鞄から取り出したのは二本のロープ。それらが勝手に動き出し、兵士たちを縛り上げた。あっという間に、芋虫の様に地面に転がっている二人。
「そのロープは、そう簡単には切れないからな。暫くは、縛られる事を楽しんでおけ。」
地面に二人を転がしたまま、私たちは砦を出立した。