第8章 依頼
呆気なく、マーフィスは出掛けて行った。
留守番を任せられた私は、家の中の畑で散歩中だ。頭上には、太陽に似た球体の何かが浮かんでいる。そして、想像以上の広大な土地。
「広いなぁ。それに、どれもサイズ感が可笑しい。この苺だって、私が知ってるサイズじゃない。初めて見たよ、手のひらサイズの苺。」
マーフィスの大事なものだから勝手に触ったりはしないけど、どういう仕組みか風も吹くし水も自動で撒かれている。家の中なのに、自然を感じられる。気分転換に丁度いい。
「あ、これって枇杷?凄い、まだ小さくて可愛い。頑張って大きくなってね~。」
散歩の合間には、パンのタネ作り。昔懐かしいコッペパン作りにも没頭。食在庫の一角にある容器に入れておけば、時間が経過しない中に収納。
数日の間、来客と言えるか分からないけれど、何回か悲鳴や奇声は聞こえて来た。でも、そっとしておいた。放置に限る。
この町の治安として、そういい方ではないらしい。マーフィスがこの家から私を出さないのはそういうことだろう。錬金術師が住む町は、お金を産むらしい。だから、良からぬことを企む人が集まったりするのだろう。
そう言えば、今世の元家族はどうしているのだろう?あの見栄っ張りの父親は怒り心頭だろうな。母親も似た様なものだし、年の離れた王城で働く兄も嫌い。
誰もが自分のことしか考えない人種だ。幼い頃は、兄によく意地悪をされたものだ。見た目だけはそこそこ良かったから、令嬢からはそれなりに人気はあったけれど性格を知っている同性から嫌われていることは知っている。
第二王子との婚約が決まった時は、家族が喜んでいた。これで、王族から援助を受けられると言って。私には前世の記憶が戻ったことが原因なのか、家族に何の未練もない。
王妃になりたいとは思わないけど、まだ王太子である第一王子の方が人望的にも良かった。まぁ、王太子は既に婚約者がいたのだけど。
マーフィスがあの時、別れを惜しむ時間をと言ってくれたけど、必要だとは思わなかった。何なら、サッサと自由になりたかった。貴族の娘が一人で生きていけるなんて思ってもいなかったけれど、ただ自由になりたかった。
我慢しかなかった毎日。抑制され蔑まれバカにされて来た日々。マーフィスがいなければ、私なんて既に死んでいたかもしれない。