第6章 貴族令嬢の思惑
時刻は朝日が昇りかけた頃。
「ちょっと対応して来る。」
「危なくないの?」
「問題ない。ミアはゆっくりしててくれ。」
頬にキスをしては、マーフィスは出て行った。少しして玄関の扉が開く音がした。確かに、複数人の声がさっきより鮮やかに聞こえてきた。
そして、その中には姦しい声がした。声からして年若い女の子の声だ。昨日の超音波とは異なるが、これもまた中々に耳が痛い声質だ。
気になったので、身支度してから玄関先へと向かった。玄関の扉は少し開かれていて、私はそっと外を覗いた。
マーフィスは扉前に立っていて、初めて目にする怒りを抱いている様だった。一体、何があったのだろうか。
「今、俺に何って言った?」
マーフィスの声が冷たくて鋭い。しかし、相手はそんなマーフィスの怒りに気付いていない様だった。
「お前の顔が気に入ったから、私に飼われなさいと言ったの。それに、お前は高ランクの冒険者らしいし、錬金術師でもあるのよね。だったら、使い勝手がいいわ。お前を拾っても、お父様は反対しないと思うの。」
「一つだけ、確認していいか?」
「お嬢様に、何たる口の聞き方。」
「いいわ、今だけは許してあげる。飼われたらしっかり調教をするけれど。それで、何かしら?」
「俺は特級錬金術師だ。個人愚か国でさえ俺を自由になど出来ない。そのことを知ってのその暴言か?」
「そんなことどうでもいいわ。お前が私の意思に沿うと言うだけで、何の問題もない訳だもの。」
「そうか。その暴言を撤回する気はない様だから、一つだけ教えておいてやる。特級錬金術師を私利私欲の為に得ようとすれば、今後、錬金術の国からの支援はない。既に、国には伝達したから直ぐにその旨がお前の家にも知らせが届くだろう。・・・追い出せ。」
風が舞ったかと思うと、蔓が伸びて一人残らず青い空の彼方へと投げ捨てて行った。
「ミア、そこにいるんだろ?俺は少し出てくる。直ぐに戻るから家の中で待ってろ。」
「分かった。」
反論なんて出来る様な空気では無かった。マーフィスの後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、静かに扉を閉めた。
マーフィスは自由を求めて、特級錬金術師になったと言っていた。今までにどんな事があったのか知らないけれど、きっとその記憶はマーフィスにとっていい記憶ではなかったのかもしれない。