第1章 恩賞
「その言葉を聞いて安心しました。」
「何か欲しいものでもあるのか?」
「えぇ、もの・・・ではなく人ですが。」
国王様は自身の娘に目を向けた。この国には王女が一人いる。目に入れても痛くないほど可愛がっている存在だ。まさか、と言う顔をした国王様だがマーフィスはその場を振り返った。
そして、この時になって目深に被っていたマントを脱いだ。誰もが息を飲んだ瞬間だった。各言う私も、婚約者より整った顔立ちをしていたマーフィスに驚きを隠せなかったのだけど。
静かな空間の中、私の元へと歩み寄って来ればその場に膝まづいた。その行為に誰もが驚いた。
「ミア=ローンベルク嬢、俺は貴女が欲しい。どうか、俺と共に人生を歩んではくれないだろうか。」
「マーフィス殿、ローンベルク嬢は私の二番目の息子の婚約者なのだ。」
「婚約者?ならば、その王子の傍にいるのは誰ですか?」
王子に寄り添う様にいたのは、浮気相手の子爵家の令嬢だった。非公認だけど、誰もが知っている存在。
「それは・・・。」
「気は変わらないと、俺は言質を取りました。そして、俺の気も変わりません。」
そこで、声を荒げたのは我が父だった。たかが、魔物を駆除しただけで図々しいなどと口にしてしまった。本当に嫌い、今世の見栄っ張りの親。
しかし、マーフィスは懐から時計を取り出し周りに見せた。
「この時計は錬金術の粋を集めた時計です。何に使うかと言いますと・・・時間を少し巻き戻すことが出来ます。あぁ、二週間前に戻して見せましょうか?まぁ、その時俺はこの国を助ける事はしませんが。そうですね、今の記憶を持ったまま過去に戻れるのは三人のみ。俺と貴方と・・・そうですね、後は国王様に証人になって貰いましょうか。」
半信半疑の父と、それに反して真っ青になっていたのは国王様だった。
「わ、分かった。マーフィス殿の言う通りにする。だから、時間を巻き戻すのは止めてくれ。」
「おや、国王様はこの時計のことを御存知なのですね。」
力なく項垂れる国王様を見た貴族たちは、その信ぴょう性を確信することになった。何よりも大きくて強い権力の象徴の人が認めたのだ。
「ミア、俺の手を。」
「よ、よろしくお願いします。マーフィス様。」
国王様が認めたことによって、父も王子も何も言わなかった。