第1章 恩賞
そう言えば、メイドの誰かが口にしていた気がする。この国を襲おうと、魔物の集団が向かって来ているのだと。それを阻止してくれたのが、確か錬金術師だったはず。
そうか、それが理由で勇者扱い。誰もが好きそうな話しだ。でも、目の前にいる人はマントを目深に被って顔が見えないが嬉しそうではない。
「名は?」
「ミア=ローンベルクですわ。」
「あぁ、その話し方は止めてくれ。さっきの話し方がいい。で、理由を聞いても?」
私は少々投げやりになっていたのだと思う。身も知らない人に、私の身の上話をするなんて。それに、前世の記憶があるなんて普通の人なら信じるに値しない内容だ。
「そうか。三ヵ月後に断罪される予定だとは。」
「い、いいわよ信じなくて。」
「信じていない訳じゃない。むしろ、興味を持った。で、どうする?」
「どうって?」
マーフィスは、私にこう言った。
「この国の脅威を排除したとの事で、俺に恩賞が出るそうだ。何でもいいと言われている。別に欲しいものなど無かったんだが、ミアがいいなら俺に貰われないか?」
「えっ?わ、私を?」
「あのバカ男を好きなのか?」
「まさかっ!?あ・・・失言だった。」
マーフィスは、楽し気な声を上げた。
「そのバカ男よりは、幸せには出来ると思うぞ。だから、俺の手を取れよ。じゃ、後でな。」
マントを翻し、マーフィスは何処かに消えて行った。空を見上げれば、綺麗な丸い月が私を見ている様に感じた。
「本気なのかしら?でも・・・どうせなら、その選択をしてもいいかもしれないわね。」
幾分か浮上した気持ちのまま、マーフィスを迎えたパーティー会場に向かった私。私を見るなり、色んな好奇の目に晒される。でも、今の私にはどうでも良かった。
少し離れた場所には、婚約者とその婚約者に寄り添うヒロインがいる。視界の端に捉えたが、もう興味も無かった。
やがて国王様たちが来場した時、会場の扉が開きマーフィスが入って来た。誰もが怪訝な顔でマントを深く被ったマーフィスを見ている。
一瞬だけ、そう・・・私の方を見た気がした。気のせいなのかもしれないのだけど。
国王様がマーフィスに恩賞の話しをした時、毅然とした声色でこう言った。
「何でもいいと仰いましたが、気は変わられませんか?」
「変わることは無い。何でも言ってくれ。」