第5章 冒険者と住人
昼間の冒険者ギルドは閑散としていた。マーフィスが受付けの人と話しをしているい間、私はまた掲示板を見ていた。
「薬草の採取・・・こっちは、鉄鉱石の採掘。えっと・・・ん?」
視線を感じて隣りを見上げれば、冒険者らしき男性がいた。この前のことがあるので、少し身構える。マーフィスの方に行こうとしたら、声を掛けられた。
「あんたさ・・・貴族の令嬢だろ?幾らマーフィスが腕利きとは言え、平民とつるんでいいのか?」
その人は、作為のない目をしていた。純粋に私を気遣ってくれている様だ。
「帰り道が分からないなら、送ってやってもいいぜ?何処から来たんだ?」
「私は・・・この国に捨てられたんで問題ありません。」
「はっ?この国に捨てられたって・・・あ、まさかあんたって第二王子の婚約者?」
「元ですが。」
「じゃあ、マーフィスが恩賞に臨んだのってあんただったのか。他の奴らも言ってたんだが、貴族の令嬢なんか貰っても何の足しにもならないっ、い、イタタタっ!!」
冒険者の顔を鷲掴みしたのは、マーフィスだった。
「それ以上、くだらない事を言うな。分かったか?」
半泣きになった冒険者は、何度も頷いている。そして、マーフィスの顔が怖い。
「マーフィス、本当のことだから私は気にしないからその手を離してあげて。」
「嫌、一言抹殺して来いって言えば死体も見つからない様に山深い場所に埋めて来るぞ?勿論、生きたままで。」
真っ青になった冒険者。もう泣いている。
「マーフィス、落ち着いて。私はマーフィスの何?」
「嫁だ。」
「じゃあ、その嫁である私のお願い、聞いてはくれないの?」
「・・・分かった。」
やっと、手が解放された。冒険者の顔には、マーフィスの指の型がくっきりと残っていた。マーフィスの本気度が伺える。
「用事は終わった?」
「あぁ、終わった。町に何か見に行くか?」
「うん。行きたい。」
だって、何の観光も出来ていないんだもの。お金は持っていないけど、見るだけでも楽しいし。
マーフィスの手を握り締めれば、少し気分が変わった様だ。だが、直ぐに握り直された。指を絡めた繋ぎ方に。ちょっぴり私の精神的な何か削れた気がするけれど、何も言わないでおいた。