第19章 世界樹の雫
若い男の背は鞭で引き裂かれ、血が滲んでいた。一体、何があってこんな事になっているのだろう。ここまで酷い仕打ちをするなんて・・・。周りには遠巻きにギャラリーが出来ていたけれど、誰も止める人はいなかった。
「そろそろだな。」
「えっ?そろそろって?」
「ほら、来たぞ。」
再び視線を戻した時、屈強な壮年の男性が鞭を持った男の腕を掴んでいた。
「この町のギルマスだ。」
つまり、冒険ギルドの一番偉い人。
そんなギルマスにギャンギャン吠えている男は、捻り上げられた腕の痛みで悲鳴を上げ苦渋に満ちた顔をした。
「あの時に最後だと言ったよな?」
「そ、それは・・・。そ、そうだ。気の利かないこの男が悪いんだ。ワシは何も悪くない。」
「そんな言い訳が通用するか。前回、言った通りにこの町から追放する。文句ないよな?」
「そ、そんなっ!?ワ、ワシは病をっ!!?」
「ないよな?」
凄むギルマスに怯えた顔をした男は、その場にへたり込んだ。
「マーフィス、そこで見てないで手を貸せ。」
「嫌だけど?」
えっ、そんな即答で拒否?ギルマス相手にいいの?
「こんな酷い状況を、いつまでも大事な嫁に見せていいのか?」
あ、マーフィスが私を見て溜め息を吐いた。魔法鞄から一本の薬を出してギルマスに投げた。それを受け取ったギルマスは、鞭で打たれた若い男の背に振りかけた。見る見る内に怪我が癒えていく。
痛みで引き攣っていた年若い男の顔が、落ち着きを取り戻した。マーフィスが作る薬って、本当に有能だ。
「行くぞ、ミア。」
「えっ?あ、マーフィス。」
手を引かれ名残惜しいがマーフィスの後を付いて行く。
「気にしなくても、怪我は完治している。」
「そ、そう。良かった。」
「ああいう輩は何処にでもいる。」
それは分かっている。人を人だと思ってない。
「ここでは等しく罰を受けるから気に病むな。その為のギルマスだ。」
「うん。」
「直ぐにでもこの町から追放されて、出禁にされる。」
「さっきの人はどうなるの?」
「アイツなら、ギルドに斡旋された者だから問題ないだろ。だからこそ、ギルマスも庇ったんだろうし。」
それでもあんな仕打ちは酷い。
「ほら、そんな顔するな。折角の可愛い顔が勿体ないだろ。さ、着いた。」