第5章 “悪夢”
赤井said
彼女を待つ間、車を用意しながら場所を確認していた。
運転席側の窓がノックされ降りるよう催促された。
「…俺の車なんだがな」
助手席に乗り込みながら文句を告げると
「傷付けられたくなければ
大人しく運転されてろ。」
脅されてしまった。
暫く無言のまま運転されていると
否が応でも気付く。
彼女は運転も上手い。そういえば、
「…以前カーチェイスをしていたな。」
思った事を口に出すと肩をぴくりと動かした。
怒られるとでも思ったのかと笑ってしまう。
「あの時の車は右ハンドルじゃなかったか?」
そう尋ねると今度は何だそんなことか
と言わんばかりに安堵しため息をついた。
「…取り敢えずこの事は内密に。今この車に乗る理由はあなたの身長が高い所為だから」
「なんだ?それは仕方のない事だろう?」
「着いた。此処で停めるから。少し待ってて」
静止させようとした声も届かず彼女は走って立ち入り禁止と書かれた扉の向こうに入って行った。
数分後戻ってくる彼女の手にはタブレットが握られている。
そのまままた運転席に乗り込み、今度は俺の指定した場所に向かった。
「…明らかに今から起きる事を分かっているな?」
「…」
何も答えないか答えられないのどちらかだが
「助けを求める事も誰かを頼る事も、
お前には必要なんじゃないのか?」
目的の場所より少し遠い位置で車を停めると降りる直前、彼女が俺の肩を掴んだ。
「…私は“護られる側”じゃない。
“甘え”なんて存在しない。それと“また後で”」
「どういう意味だ?」
車から降りながら建物の影を歩く彼女に聞いたが首を横に振られ俺が向かうつもりだったポイントを指さされた。
仕方無くそのポイントに着いてスコープを覗くと彼女が見えた。
何故彼女があそこに入ろうとするんだ…?
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