第3章 跳躍
その場限りでバンドが組まれると園子は感動している様子でお姉さまッと抱きついてきた。
その様子が嬉しくて頭をよしよしと撫でて「ビッグマウスは程々にね。」と笑うと園子は頷いた。
「まぁ即興ですがこのくらいは。」
安室さんがにこやかにギターを彼らに返していた。
「ところで、お上手ですね。
バンドなさってたんですか?」
と聞かれ、思い返そうとしてみた。
が、この世界に来た時点から気付いてはいたことを思い知る。
ーー私はこの世界の事以外、
何も思い出せないーーー
以前蘭ちゃんに聞かれた自分の今よりも前の記憶がない事を実感して、ぼーっとしていた。
「お姉さん、ある時以前の記憶がないんです。」
少し辛そうにする蘭ちゃんに居た堪れなくなり
「蘭ちゃん、大丈夫。」
あなたが悲しむ顔は見たくないよ?と蘭ちゃんの頭頬に優しく触れた。
それを見た安室さんは私に対して謝ってきた。
「今日初めて会った人なんですから、しょうがないです。大丈夫ですよ。」
そう言って顔の前で手を振っていえいえとして見せた。
「…本当に、そうですか?
以前、お会いしませんでした?」
言えたら楽だ。全部話せたら。
でもそれで未来が変わってしまったらと思うと言えない。
「…いいえ?誰かと
勘違いなされているんですか?」
“言うな”そんな顔で彼を睨んだかもしれない。
少しの間、彼を見つめた。
言える筈がない“未来から来た”って言っていましたよね?なんて
こんな大勢の前で言えば何を言っているんだと言われるだけで
会話は終了するだけ。
「ねー!お姉さま!楽器教えて!」
園子ちゃんが言った。