第2章 “才能”
主人公said
哀ちゃんと会って、阿笠博士に匿って欲しいって伝えた後どうなったんだっけ、そんな事をぼんやり思いながら目を開けようとすると自分の身体が何か四角い箱のような硬い所にいるのが伝わって来てそこから身体を起こした私は目を疑った。
ーー試着室ー?
薄いカーテン、硬い足元、四角く区切られたブースで何故か目覚めると時間が気になり、携帯を取り出し時間を見ようとした。
パスワードが入力された状態になり、また?と思っているとそこには
ーーー
一般男性の携帯に紙を挟め。
内容はーーー
と綴られていた。それを見た私は自分が“”どこ“”に居るかを理解した。
デパートの一部階層が封鎖されるあの立てこもり事件の現場だ。
そして気付く
ーーーー時間が、私がこの世界にたどり着いた時よりも“前になってる”ーーーーー
ということは、この自分の携帯を見る限り“彼”に接触する必要があるってことだな。
試着室から出て店から移動すると他の店のレジ付近にメモとペンが置いてあるのが見え、店員にこのメモ用紙とペンを貸して欲しいと頼んだ。不審がられるかと思ったが、あっさり承諾されなんならこちらに興味もないようだ。この様子だと私がメモを貰った人だと覚えてる事も無いだろう。
メモを書き終え、一応筆圧を気にして下も何枚か取ってその部分は自分のポケットに忍ばせた。例の一般男性を探しているとエレベーター前に人だかりができているのが見えた。そこへ近づこうとすると、自分の直ぐ横に例の一般男性がいる。失敗が出来ない場所なのかもと一瞬考えると緊張が走り、ーーー次の瞬間、一般男性に身体がぶつかってしまった。バランスを崩しかけるがその男性に手を引かれ、抱き寄せられる形となった。
チャンスだと胸元に手を当て、相手の顔を恥ずかしそうに見つめる。
「ごめんなさい、余所見をしてしまってっ」
「っ!」
上手く自分に見入った状態になってくれたその男性の外側のポケットに手を入れ、折り畳み形の携帯に紙を挟み込む。
「いえ、自分こそ。こんな状況じゃしょうがないよね。」
照れたように話す男性が優しく声をかけてくれるが、正直興味は無い。すぐに男性から離れ、お辞儀をしてその場を離れた。
その男性はぼーっと自分の事を眺めているようで、背中に視線を感じた。
.