第20章 世界
「私が用意させたから、気にしないで飲んで。
あと、悪いけど着替えてくるね。血生臭くて辛いからこの服。」
パタパタと走って執事が現れた方へ消えて行くのを見届けてから執事に声をかけた。
「この船は、彼女の所有物ですか?」
その執事は表情さえも微動だにさせずただ其処に立っている。
「…無駄ですよ。彼、答えてくれませんから。」
降谷君が紅茶を一口飲み、話し始めた。
「……知っていると言わんばかりですね…?」
「何日か前に違う船でお会いしました。」
「ほぉ…」
椅子に座り出された珈琲を頂くとボウヤが話しかけてきた。
「昴さん、この船って…」
「ボウヤ、残念だが私にも全く分からないよ。」
恐らくこの船の事が気になるのだろう。FBIの方で何か聞いていないかと今にも聞き入って来そうな彼を先んじて制した。
ザザッ
執事が身に付けているのか、ノイズ音と共に彼女の声が聞こえた。
しかしノイズが酷く何を言っているかまでは聞き取れない。
執事がテーブルに近付き、ボウヤに手渡した。
何も言わずにボタンを押すように言われたのか、一度押して話すと水が停めど無く流れる音と共に彼女の声が聞こえた。
『コナン君、トイレに行きたくなったら左手後方に個室トイレがあるからそれ使ってね。あと5分くらいで戻れるけど、一応何か食べる物、出させようか?』
発言からしてボウヤが彷徨くのは困るのだろう、その動きを予期している事を感じさせた。
ボウヤはそれを感じ取ったらしく、何も言わずに執事に返した。
執事は彼女から何かの指示を得ている様子で何度か頷く。
通信が切れて直ぐに執事は彼女が消えた出入り口まで行き、誰かから何かを受け取って戻って来た。
色とりどりに盛り付け飾られたブルスケッタがテーブルに置かれる。
それを1つ摘んでその執事は自分で食べてしまった。そのまま食べ終えると元の位置に戻りまた立ち尽くしている。
何も入れていない事を伝える為の彼女の伝言だったんだろうと分かればその場にいたメンバーは口元を緩ませた。
好きな物を取り、食べていると彼女が戻って来た。
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