第18章 合図
安室さんは私が別に分けたタッパーに目を向ける。
「はまぐり。私、二枚貝はこれしか食べられないから。」
「え?…じゃぁ、コレは…?」
こんなにバケツ2杯分もどうするのかという目を向けている。
「調理しますよ?安室さんも良ければ調理します?」
「え、ええ。…」
調理した物の行き先を聞きたそうにしていると分かっているが敢えて無視して両腕にバケツを持とうと手を伸ばす。
それを制されてバケツを1つ持ってくれる。海の中で動かしていたカゴを持つだけでも重いはずなのに。
管理棟に道具を返却して、車にバケツを積み込む。
「…車、良かったんですか?」
「ICPO所有のこの車が気になってたでしょ?それに…」
「それに?」
「…RX7を海水とか砂で汚したくなかった。」
運転する?と鍵を差し出すと慣れませんがやってみますと言う。断っても良いのに。
「…RX7の方がかっこいいとは思うけど、
2024年にRX9が発売されるの知ってます?」
「え?…本当に?」
「ほんと。買ったら乗り回す。」
「……」
「…今、乗ってみたいって顔した?」
「…分かってしまいますか」
どこか恥ずかしそうに笑った降谷さんは“男の子”という無邪気な感じが垣間見えた。
一度貝を渡したくて降谷さんの家に寄って欲しいと言うと彼は分かったと短く了承した。
好きなだけ取って貰って、再び車へ戻る。
安室さんが戻るまでの間に運転は交代した。
「次はどちらへ?」
「んと、一旦ポアロにコレを全部預かって貰う」
後部座席に乗り込んでいる貝を指差すと彼は不思議そうにしている。
ポアロの着くとバケツを持って厨房に向かった。店主に挨拶をして後日の話をし終えるとまた車に乗り込んだ。
「…また移動ですか?」
「不満?」
「僕はただ…“2人”で居たいのにな、と」
少し距離を詰められるその艶めかしい顔に心拍数が上がる。
「今からは…2人で居られますよ?」
それを同じ様に返すと彼も同じなのか嬉し気に僅かに目を細めた。
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