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D.World.

第17章 齟齬








それと殆ど変わらないタイミングで動いていた脚は止まってしまう。


“甘え”なんて存在しない

“護る側だ”

“私にしか出来ない”

ーーー…なのに、
   どうして…ーー


顔は上げられないが服の擦れる音や靴音、影の動きで分かる。沖矢さんが私の前に移動してしゃがむ。

「どうし…!…」

見られたくなくて、掴める位置に自らやって来た沖矢さんの胸ぐらを極めて弱い力で掴み、その胸元に顔を埋めた。

「…」

何も言わずに片腕で小さくなった私の身体を座らせる様に抱え上げ、歩き始める。

「…貴方は、私が不器用だと知っているでしょう?頼られたいんだという事も。…知っていて、何も言えませんか?」

嫌な言い方だ。
いつだったか“甘えて下さい”と言われたことのほうがずっと楽だったと感じる。

「…grief…」

「…何を失いました?…」

「…memory…」

「貴方がですか?困りましたね…」

「…except me…」

「……」

近くの公園に移動したらしくベンチに降ろされる。沖矢さんはすぐ横に座り此方を眺めた。


「…今まで貴方は頼ってはくれませんでしたが、今のそれは頼っている行動ですか?」

それ、とは私があまり使わない英語の事。
それもgriefは悲嘆悲痛を表し、主に使われる場面はグリーフケアという喪失感を解消する為のプロセスの事。気持ちの整理や周囲の継続的なサポートが必要な事をこう呼ぶ。

「私は…甘えたり、頼ったりが、…」

「…出来ないんですね…ただ“苦手”という事でも、あったんですね…?」

そう、言えなかっただけではない。言いたくなかっただけではない。時間の問題でもない。
その言葉に頷くと沖矢さんはそっと私を抱きしめた。今までの“いつ”よりもただ優しく。




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