第17章 齟齬
視線を外の景色に戻して青い空を少し眺める。
ーー…イベントホライゾン…
“2度と戻れなくなる限界点”をそう呼ぶなら
私のこの身体にも弱点が存在する。
最も、此処でそれを知る人間は4人だろう。
ただそれより一刻も早く世界線を飛ぶ事が
できたら楽なんだが。
タイムリープを繰り返して安全な位置まで戻ってきたこれまでの構成が無駄になりかねない。
…ダイバージェンス…ーーー
ポアロのドアが開き、目線だけ其方に向ける。
沖矢さんが出てくると同時にその奥で安室さんが少し驚いている表情が見える。
ーーやらかした…今のはBarの戸口での動きに似ていたかもしれない…ーー
片足を浮かせくるっと身体の向きを変える。
沖矢さんの前に両手を広げて真っ直ぐ見つめた。
「…だっこ。」
「!!」
固まった沖矢さんはいつも以上に動かない。
「じゃぁ、手。」
しょんぼりして見せて片腕を下げると何かを考えるように顔に手を当てた。
「…繋ぐ事を拒否されていたのに、突然どうしたんですか?…」
手を引いて今すぐ行動を起こせば、伝いたい事は伝えられる。だがそれはもう“癖”のようになって安室透の目には鮮明に映るだろう。
彼がそれを覚えているかどうかは別の問題なんだがな。
行き場を失ったもう片腕も降ろした。
「…もう、いい。」
俯いて今度は帝丹小学校の方へ歩き出す。
私の後を沖矢さんはついてくる。
ーー彼等が覚えている記憶を持っている事で、何らかの変化が起きているかもしれない…ーー
「……」
徐々に、自分の視ている範囲が知らない世界に見え始め、喪失感や消失感に胸の辺りがチクチクと軋んだ。
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