第16章 “疎通”
主人公said
やっと戻る事が出来て、ポアロで質問攻めにあった後、哀ちゃんに会うべく阿笠邸に移動した。
「…」
部屋に入るなり無言なのに既に文句を言っている顔を向けられるから駆け寄って抱き締めた。
「…ただいま。」
はいはい分かったから離れてくれない?と冷めて言われる言葉を無視して頬擦りした。
「…それで?“実験はどうなったの”?」
驚いて顔を見える位置にバッと離すと、哀ちゃんの意地悪なニヤニヤした顔が見える。
“お陰でとんでも無い事になっている”
“最悪な副産物だ”
“変化が無いどころか悪化した気がする”
どんな言葉を選ぶ事がベストなのか分からず頭の中でぐるぐる色んな言葉がけたたましく巡り、体温など無い筈なのに熱を持っていく気がした。
「あら…脈も無く、血も巡っていないのに…」
私の身体に小さく細い指を当て滑らせ、確認を取られる。
「…顔は赤くなるし、瞳も潤むのね」
顔を近付け、頬に手を当てると小さな顔の大きな目を細めて「…可愛い。」と言った。
「っーー…!」
哀ちゃんってそんな子じゃなかったはずッ
耐えきれなくなり顔を逸らす。
「…少しは“人タラシ”に何かされた側の気持ちが理解できた?」
折角逸らした顔を覗き込むように更に追い討ちをかけてこられる。
「でっ…き、た。」
物凄く満足そうな顔をして髪を耳にかけると、バングルから外していた部品をつけた。
「っ……哀ちゃんの今の顔、永久保存する。」
「は?…ちょ、やめなさい」
照れを隠しながら私に何らかの仕返しをして来た哀ちゃんに、せめてもの反抗をすると哀ちゃんは焦りを見せた。
「…ループしてもう一回見てこようかな…」
「使い方が私的で無駄遣いな気がするわ。」
「………」
「なによ」
「…いや…哀ちゃんが男の子だったらって
世界線があったら、
「おや?これ以上ライバルが増えるのは困りますね?」
いつからそこに居たのか後ろから沖矢さんの声が耳元で響いた。首に手を当て、親指で顎を抑えられると顔は自然を斜めに上を向く。
「…ただでさえ、彼は厄介だというのに。」
沖矢さんは私の首元に顔を近付けた。
咄嗟に視線で哀ちゃんに助けを求めると哀ちゃんはため息を吐いて
「やめてくれないかしら?私の前で」
助けてくれた。
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