第16章 “疎通”
『“頼られてない”のかと思いましたが、“頼る事ができない”でいたんですね?』
『…覚えていない人には危なくて言えなかった。それにその場で追及されても答えられない。』
『所々、私達にも覚えている事がありましたが、“いつ”あった事、や部分的に思い出せない、などありましたけどね。』
『それって?』
『私の場合は…“貴方のシャツが欲しい”って言われた事ですかね…』
「……は?…」
携帯から顔を上げて彼女を見ると頬が赤く、俺と安室さんに見られないように一瞬遅れて顔を逸らした。
思わず声が漏れたんだろう安室さんは携帯が割れそうな程力が入っている。
暫く黙った後、安室さんは力を緩め何かを入力した。
『またご飯作って下さい。僕の部屋で。』
ーーこの人の過去、あんまり知らねぇ方が良いかもしれねぇな…てかその話じゃ無くてーー
昴さんの煽りに安室さんの誘いを受けたその人は更に顔を見られないようにポアロのカウンターに顔を埋めた。
『灰原が店の場所を、安室さんは革物の店の事を、沖矢さんは道具の事を、覚えていて話してくれたから辿り着けたんだよ。』
『!そっか…』
俺のメッセージを見て彼女は隣で居る俺に抱きついて来て耳元でありがとうと言った。
驚いて、擽ったいその声に固まっていると、自然とカウンターの向こうに居る人と目が合う。
ーーこえーよ。ーー
乾いた笑いを向けると満面の笑みを返された。
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