第14章 羈絏
言われたくなかった言葉を並べられ
実際はそんな所にはいないのに
崖にでも追い込まれているようで。
彼女は見えない足場も平気で
すぐに先へ行ってしまう気がして。
偶に思う、こんな風に真っ直ぐでいられたら
「…だが、
人の心は自身でさえ理解できない事がある。
私はそれを“気持ち”だと捉えているんだが、
何もかもを無視して
どんなに捻くれていたとしても
“安室さんの気持ち”は受け取っているから。
…ありがとう。」
これは、何の戒めだろうか。
“心に従えなかった”のは
“私を側に置きたかったんですよね”
だから、お礼を言われたんだ。
彼女は僕の“気持ち”に気付いている。
気付いて、恥ずかしくなって。
信号で止まった時にハンドルに腕を乗せてその中に顔を埋めた。
彼女の言葉はいつも、不思議だ。
「ベルモットは何故貴方にあんな事を?」
「…私は全部の答えを持ってるわけじゃ無い」
誰でもそうだとか、君は持っていそうだと言いたかったが、彼女の表情が気絶してしまう前の仕草に見えて、とても苦しそうで何も言えない状態だと判断した。
「停めますね。」
ハザードを付けようとした時その腕を掴まれた。
「っ……」
もう片手は自分の胸倉を力強く握っている。
ハザードを点け、彼女の片手を強く握った。
「…どうすればいいですか?」
彼女の目を見て話すと息も絶え絶えに
“東京湾の品川に近いコンテナ港に”
それを聞き取り、急いで車線に戻る。
彼女は助手席で携帯を操作しスピーカーの状態でこう言った。
「…限界点だ…っ…迎えを…」
通話相手からは何も聞こえず
彼女の言葉を聞くなり
その通話はプツリと切れた。
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