第13章 “× ×”
椅子から立ち上がって数歩進み2人の正面に向き直る。
「そのまま食べながら話したいんだけど、
2人を誘ったのには理由があるんだよね。」
「「…」」
弁当を食べてて欲しいと言うと2人は黙って聞いている。
「実は昨日、
沖矢さんにディープキスされて“心底気に入ってる”って言われた後、
安室さんに“好きだ”と言われ続けざまに“返事は要らないでも覚えておいて”って言われたんだけど…」
今度は2人とも喉に通りきらなかったもので咽せている。
「…実は仲いいの?
打ち合わせした?」
芝の上に座り、2人を見上げる形で腕を組んで質問する。
「心外ですね。」
「動揺してるよね?それ。
心外の意味は、思い通りじゃない
不本意だって事だけど、ちょっと使い方ズレてる気がする。」
「いえ?合ってますよ。私は言葉通りに自分の気持ちを伝えましたし、行動でも示しただけですので。」
「じゃぁ、打ち合わせ無しで同じ日にそうなるのは何で?」
分かりかねますと笑顔で返される。
「僕も同じですよ。想っている事を伝えたかったんです。まさかこういう形で暴露されるとは思ってもみませんでしたが。」
「安室さんは少しフェアじゃない位置にいるから後で色々教える。」
「?…“フェアじゃない”とは?」
「あくまで不慮の事故だと捉えて欲しいんだけど、沖矢さんは私の風呂入ってる所見たことがあるんだよね。」
「なっ……あか」
「…。」
赤井秀一と叫びそうになった安室さんに手を伸ばして首の後ろをそっと触る。
額をくっつける姿勢をとらせると安室さんは途中で言葉を止めた。
「…安室さんの本名を今ここで叫ばれたく無かったら、少し冷静になって欲しい。言ったよ、私。“不慮の事故だと捉えて欲しい”って。」
「…納得出来かねます。」
手を離してさっきの位置に戻ると安室さんは少し不貞腐れている。
「じゃぁ、安室さん、今度海に行こう。2人で。」
「!」
「…。」
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