第13章 “× ×”
運転席の後ろのドアが開き安室さんが乗り込む。
「…おや? 私だけかと思っていましたが。」
「それは此方のセリフだ。」
「両方誘った。」
運転を再開して車線に入る。
「どちらへ?」
「…服を買いに行こうと思って。あと革物の店に。」
「この間の?」
「沖矢さんは店の外で居て店内には入ってないでしょ」
後ろから優しく微笑む笑い声が微かに聞こえた。
「でも、その前にごはん。弁当作ってきたから食べよ。」
15分後
大田区の浜辺に隣接した公園のベンチに座り
沖矢さんと安室さん其々に包みを手渡した。
私は2人の間に座っている。
「ビーフサンドですか?」
「嫌い?」
「いいえ。いただきます。」
包みを開けた安室さんは固まっている。
おそらく態々違うものを作ったのかと思っている。
「私にとっては手間じゃないから。」
「ありがとう。」
優しく微笑む安室さんが私の頭を撫でる。
すると左側から少し齧った跡のあるサンドイッチが口の前に差し出された。
それを何も言わずに食べると安室さんの手が頭から弁当箱へ移動する。
ーーマスタードを効かせても良かったかもしれないな…ーー
サンドイッチを食べながらそんな事を考えていると
口の中がなくなった頃、安室さんが魚とご飯を器用に箸に乗せ
私の前に差し出す。
横髪を指でかき上げながらそれを食べる。
ーー冷めたせいか少し薄い味になったか…?ーー
それぞれに雛のように食べるものを与えられ感想を聞くより
自分の味付けがどうだったかを考えた。
ーーまぁ。それはいいとして。ーー
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