第12章 “降谷”
声を掛けられた序でにローファーを注文出来ないか尋ねた。
「黒でエナメル無し、女性らしい丸いフォルムじゃなくて、男性らしい角がある方がいい。底の高さは5cm未満で、ローファーって言ったけどショートブーツでも。とにかくかっこよくして欲しい。」
意気揚々と注文をつけてサイズを測られる。
すると足のサイズを見たいのか安室さんがしゃがんだ。
ーー足のサイズを見たいというより、計り方を見ている様な…違う様な…ーーー
サイズを測り終え靴を履こうと脚を動かそうとすると安室さんの手がそれよりも前に動いた。
「っ…」
脚を触られ靴をはかされるが、くすぐったかったし歩いた後なんだからやめてと言う間もなかった。
「…まさか、汚いとか思ってないですよね?」
顔を上げた安室さんが問いかけて来た
「思うに決まってる。そんな綺麗な仕草で触られて驚いたし。」
ゆっくり立ち上がりながら
「僕は…貴方の方がとても綺麗だと思っていますよ。」
丁度耳元に来る位置でそう囁いた。
そのまま自然過ぎる流れで私の後ろ側に立っている。
ーーあれだ。もう、別ベクトルなんだ。同じ人だと思っちゃダメだ。ーーー
自分も例外ではない事を棚に上げそういう事にして冷静を保とうとした。
この店の会計を済ませ、出来あがり次第阿笠邸に届けるように頼んで店を後にした。
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