第12章 “降谷”
降谷さんがシャワーから戻るのを待つ間、
ベランダに目を向けると白いシャツが干されている。
“組織みたいでやめて欲しいのよ。真逆の白でも着てみなさい”
哀ちゃんの言葉を思い返していた。
「…真逆の白…」
「着てみますか?」
「!」
完全に油断していた。
視界が遮られた場所に立っていた。
後ろから抱き締められる形で身動きが取れない。
けれどそれは何分と立たず解放されて
頭の上に彼の手のひらが降りて来た。
「着替えますので待って下さいね。」
いつもより少し頬が赤いのは風呂に入って火照っているからだろう。
部屋を出るなら靴を履いて待っていようとドア前に向かうと奥から声をかけられる。
「作ったものは冷蔵庫ですか?」
「そうですよ。6品ありますが皆さんの好みを知らない事と主食分が無いので、断っておいて下さい。」
「…分かりました。」
ーーあ。そうだ。ーーー
「降谷さんには別に1品作ってありますので、部下の人達の分は取り上げないで下さいね。」
そう話すと奥から間を置いて笑い声が微かに聞こえて来た。
「はい」
何処となく嬉しそうなその返事に納得する。
靴を履いて待っていると紙袋を手に持った降谷さんが玄関に向かって来るタイミングに合わせてドアノブを回して先に外に出た。
殆どそのタイミングで正しかったかの様にスマートに靴を履いて彼が出て来ると一気に距離が詰まり、お風呂から出てすぐの良い匂いが鼻をくすぐる。
顔を逸らして外に目を向けるが、
忘れていた。此処、4階だ…
ピタリと動きが取れなくなる私を見たのか安室さんの手が視界を遮ってくれる。
「…だからキッドに攫われた時、目を閉じていたんですね?」
言い逃れる必要も無ければ争っても無意味だ
「…ん。高い所、苦手。暗くて見えなかったり、何かに集中すれば少し平気。」
手、ありがとうと言って外側から手を触ると今度は安室さんが動かなくなった。
「…?」
そのまま首を傾げると突然その手は離れる。
「…出掛けましょう」
「何処に行くんですか?」
前を進む彼について歩きながら聞くと
此方に顔を向けた安室さんは
片目を閉じ人差し指を口の前で立てらせ
「秘密です」
と答えた。
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