第12章 “降谷”
お客さんだった人はカップを持っていない手を振るわせていて、目線を逸らして答えた私の視界からよく見える。
ーーあー…女性の恨みが怖いなぁ。ーー
その考えを含んだ目を安室さんに向けると「火傷がなくてよかった。」と涼しい顔をしている。
更には
「僕の勤務時間は終わりなので、車の鍵。取って来ますね。待ってて下さい。一度着替えたいので僕の家に向かいましょう。」
ーーーなどと発言しており、こちらの確信犯はこの女性をお客さんの枠から完全に除外したようです。ーーー
心の中でニュースの、犯人の犯行声明をしたキャスターの様に実況し、心の中で終止符を打つことにした。
笑顔で店内に戻りって行く安室さんに適当に手を振ってみる。
ーーシグナルフォーヘルプでもやっとくか…
貴方のせいで背中の視線痛いですよーっと。ーーー
目を見開いた安室さんは直ぐに意味を察し、口元に手を置いて肩を振るわせている。
明らかに笑っている仕草に苛立たずにはいられない。
早く鍵取って来いッ
というか鍵なんて持ってるだろッ
外でエプロン脱ぎたくなかっただけでしょッ
私の後ろにいた女性は舌打ちをして、この場から離れて行った。
ーーこわ。ーー
「お待たせしました。」
今この涼しい顔してる人に怖かったぁ、とか言って泣きついたらどんな顔するんだろうなと良からぬ考えが一瞬頭を通過した。
.