第12章 “降谷”
ーーでも哀ちゃんに目的地言ってないのになーーー
まぁいいかと思いながら阿笠邸の玄関を出てポアロに向かった。
ポアロに着くと店内はまだお客さんが多く、忙しそうだ。
視界に入らない様に出入り口にほど近い壁に背中をつけた。
少し経って、お客さんを見送りに出てきた安室さんと目が合った
が、テイクアウトのカップを持ったお客さんは安室さんとの距離が近過ぎてーー
お客さんの足先の動きが視界に入った私は咄嗟に2人から距離を取る。
距離が近過ぎた安室さんはお客さんの珈琲を胸の辺りでかぶってしまった。
ーー…この女性、わざとやったな…ーーー
お客さんは一瞬私を視界に捉えると、持っていたカップと蓋との接合部分を親指で押し蓋を浮かせていた。
だが、それを指摘したところで動機を認めないだろう。
「…大丈夫ですか?火傷はありませんか?」
「っ…ごめんなさい私ったら。私は大丈夫です」
ーーまぁ、そう言う会話が無難だろう。事を荒立てても何もーーーー
「いえ。僕が言っているのは貴方ではなくーー
「?!」
突然、褐色肌の腕が此方へ向かって来て
交わそうとすれば交わせるが
これは交わさない方が、たった今彼が掻き乱した
この場の成り行きが収まりが早いと判断して
安室さんのエプロンの方へ引き込まれた。
ーー…私が察すると分かっていて…避けないと分かっている。…ーー
「……貴方に、聞いています。」
顎を軽く上に向けられ、否応でも
見つめる姿勢を取らされる。
其れを直視出来なくて目線だけ逸らした。
「…大丈夫。避けたから。」
.