第12章 “降谷”
少し待ってみたが、その内放置プレイでもされている気分になってきて、少し意地悪な感情が芽生え始めた。
「とーるさん?」
『っ!…』
息を呑む声が微かに聞こえて其処には居たんだなと認識する。
それでも話し始めないから彼が話し出すまで、今度はこっちが黙っていようと決めた。
『…昨日、』
彼が漸く喋り始める。
『暫く貴方の声が聞けないのかと思っていたので、嬉しくて。』
ーーーおい。誰だ?この人が女性に慣れてるとか言った奴は。とんだ偏見だ。組織でネームドだったとしてもこの感じは、いや、もしかして…ーーーー
「…誰にでも言っちゃうやつですか?」
とんでも無い事を聞いてしまった。
放った言葉は引っ込みがつかない。
覚悟を決めるか。
『…君は少々、僕の事を誤解しているようだ。』
ーーー今言うのかそれッ!
耳元で言うのはやめてくれッーー
決めた覚悟は一瞬で崩壊した。
「…えっと、ごめんなさい」
取り敢えず素直に謝って、呼び止めた理由を聞いた。
『突然で申し訳ないのですが、予定が空いているようでしたらお相手頂けませんか?』
「トレーニングの?」
『…。』
ーーーえっ?何で黙るの?
話の流れおかしく無いよね?ーーー
「…“お相手”って言われるからてっきり…。何であろうと今日は予定ありませんので、付き合えます。元々、安室さんを誘うつもりで電話しましたし。」
『では、昼過ぎにしましょうか』
「昼までは何か予定があるんですか?」
『午前中ポアロに。』
「なら私が昼前、ポアロに出向きますね。」
『お待ちしてます。』
漸く通話を切り終えて10分かかっている画面を見た。
.