第9章 贖罪
哀ちゃんの手を握り、向き合う形で
博士にも聞こえないくらいの声量で話した。
「必要なものを揃える為に、人の死を何度も見た。同じ光景、同じ様に助けられない知っているのに解っているのに。繰り返した時間に制限があって、私は世界線を越える必要があった。自分が死ななければ、その世界線は越えられない。でもコレは、私にしか超えられないから。…だから、ごめんね。死ぬところをまた見せてしまうかも。まぁでも……多分、また起き上がるよ?…ゾンビみたいに。」
「…ああ。もう。ちょっと面白いって思っちゃったじゃない。でも笑えないから!」
腹が立つというような顔をするのに口角が上がっていて握っていた手を離されるとバシッと叩かれる。
哀ちゃんの母が“人間なんて切り裂いて一皮剥けばみんな同じ肉の塊”なんて言った事を知っているのは狡いだろうな。
彼女には海外で喜ばれそうな発言が好みなんだろうなと思っていたから。
「哀くーん。終わったぞー」
哀ちゃんと一緒に博士に近付いてバングルを受け取る。
「ずっと居所分かる状態?」
「当たり前よ」
「盗聴はされない?」
「迷ったわ」
「迷うなよ」
「通信は切れるようにしてあるけど此方からも鳴るようにしたから。ちゃんと伝えなさい」
「…もうダメ。我慢できない。」
哀ちゃんとのやり取りはやっぱり好きだ。華麗にスルーされる所もツッコまれるポイントも私には丁度良い。
“伝えなさい”って言ったのは哀ちゃんだから。
「何のこと?」
「哀ちゃんは私の中で“妹”的存在だって思ってる。
全部じゃ無いけど多少貴方の事を知っている身としては
此れは思ってても言っていいものか迷ってた。
今の伝えなさいって言葉を実行してだけだから!
じゃ、あと1時間半で戻らないといけないからもう行くね。
博士ありがとまた後で。」
言いたい事を言って急いで阿笠邸を出る。
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