第8章 “痕跡”
見慣れない天井だ。
木製…畳の匂いがする…
…たたみ…の…
………
「…ひっ…」
まさか
まさか
ゆっくり目を開けて天井が
木で出来てて
畳の匂いがして
背中にベッドの厚みを感じて
すぐ右に見えるテーブルと
その奥に見える引き戸と
アコースティックギター
部屋の出入り口からして
自分が今いるのは
降谷零の自宅だ。
ーー最悪だ。察しはつく。
気絶したのが降谷さんと居た時だ。ーー
部屋から物音は聞こえない。
一応念の為に身体を起こし
部屋の出入り口から玄関の方を見る
ーーテーブル、シンク、冷蔵庫とレンジ
冷蔵庫の横に玄関で反対側にゴミ箱
距離を空けてガスコンロ…ーーー
間違い無い。
額に手を当て、気絶するタイミングの悪さを心底恨んだ。
ーー怖。沖矢さんが赤井さんだって事を口走らないようにしなくちゃいけないとか、黙って出ていって良いんだろうかとか、自分を抱えたんだろうかとか、自分の荷物探られたんじゃ無い…か…だ…とか…っ?!?!ーーー
色々考えた後で気付く。
荷物について。
先ずは自分の携帯。
パスワードロックがかかっていて開いてはいないだろうと感じる。
そして赤井さんから支給されている携帯。
こちらも一応ロックは掛けているが…
画面を黒くし、反射させて指紋を見やすくする。
ーーー…自分が触れる指先よりも大きく触れた痕跡があるーーー
最も登録した電話番号は自分にしか分からない様に登録してあるから見破ることはできないと思うけどな。
財布と身分証もあり、リュックは持って来てなくて良かったと深く思った。
ーー今後安室さんの前でリュックを持つ時は、赤井さんを降谷さんが認識した後だな、ウサギ亭の何時間か後。ーー
畳の部屋のテーブルに目をやると
真ん中くらいにメモがあった。
ーーーーー
突然苦しみ出して驚いたよ
そのまま意識も失ってしまって。
君には脈が無かったから
病院には連れて行けなかった。
目が覚めたら冷蔵庫のものを
好きに食べると良い。
鍵はスペアが無いから
外出は控えるように。
夜には戻る。
ーーーーー
普通なら喜ぶんだろう。
何て優しい人なんだとか
ご飯食べて良いのとか
作ってくれたのとか
そうやって。
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