第4章 【片想いの小さな恋】
「とにかくすっごい厚いから!笑
その厚さ見てやる気失くさないでよ?笑」
知らなかった。
普段の先生ってこんな風に笑うひとなんだ…。
「多分、大丈夫です笑」
もっと長く、もっとそばで
その笑顔を見ていたいと思った。
「あ、あと髙橋君その添削なんだけど…
数学研究室の方で17時くらいからしてもいい?」
「あ、はい…大丈夫ですけど。」
むしろ、そっちの方がいいんですけど…!
そんな願ってもない提案に胸が躍る。
「職員室で個人的にあんまり関わりすぎると
ひいきだなんだってうるさいから…ごめんね?」
もともと一緒にスマホ画面を覗けるくらい
近かった距離を更に近づけて…
麻生先生はオレに耳打ちをしてきた。
「全然…! 全然大丈夫っす…。」
オレは思わず先生から耳打ちされた左耳の耳たぶに
触れて熱を冷ましながら麻生先生と距離をとる。
そんな自分を覚られたらどうしよう、
なんて心配すら完全な取り越し苦労で、
ホッとしたような、悔しいような。
「あ、髙橋君の都合のいい曜日ある?」
そんなオレの胸中なんか素知らぬ顔で
会話を再開されては
全然、男として見られてないんだな…
っていうあたり前な現実に
少しだけ、抉られたりする。
「えっと…、できれば月曜日がいいです。」
「月曜日ね! 了解! じゃあ、
来週の月曜日、17時に数学研究室で待ってるね。」
***
職員室で麻生先生と約束をした帰り、
早速参考書を求めて本屋に立ち寄った。
いままで参考書コーナーに立ち入ったことが
あまりなかったオレは変な緊張感を感じながら
目当てのものを探す。
普段学校にいる同級生とか、ジュニアのメンバーとは
明らかに毛色の違う客層に
『そういえば、先生は
どんな生徒だったんだろう…』
と心がざわついたりする。
「……あった、これだ。げ…! 厚っ!w
だし、参考書ってこんなするんだ…
シングルより高いじゃん笑
よかった…。お金、ギリ足りたわ。」
もしかしたら高校生時代の先生と
お揃いを買えたのかな。
そんなことを思った途端、
この重さが嬉しくなるし
帰りの足取りが軽くなるなんて…、
自分の単純さが馬鹿らしくも
可愛くも思えた。