第4章 【片想いの小さな恋】
自分の気持ちに違和感を覚えたところで、
先生にとってはイチ生徒でしかないオレは
まだなにものでもないけれど。
警戒されることもない今の自分の立場は
ある意味強いよな、と。
生徒として頼られたら拒否できるはずもないから
とりあえず、この違和感の正体を確かめたくて
生徒の特権を逆手にとることにした。
その日の放課後、職員室を覗いてみると
先生の周りに珍しく生徒がいなくて。
早歩きで先生の机に向かっていると、
オレに気付いたらしい麻生先生から声をかけられる。
「髙橋君! 今回頑張ったね。」
「…ありがとうございます!
ちょっと、頑張っちゃいました…笑」
「もしかして、大学進学考えてたりするの?」
「えっと…美大にはいけたらいいな、
とは思ってるんですけど…、
芸能活動のこともあるので、
あんま、具体的には決めてなくて。」
「そっか…、それはそうよね。でも
勉強頑張ってたら大学に進学したくなったときも
選択肢が広がるから! この調子で頑張ってね!」
「……はい。あの…
そのことでちょっと、相談が…。」
「うん、なに?」
「僕、仕事で授業受けられないことも
あるじゃないですか。だから、補習っていうか。
個別で週一くらいで添削してもらえたり…
しませんか?」
「うん、いいよ。いいけど…
それこそ大変になっちゃわない?」
「大丈夫です。
努力するのは嫌いじゃないんです、僕。」
「髙橋くん、その年で偉すぎでしょ!笑
そういうことなら私にできることは
全力でサポートさせてもらうから遠慮なく言ってね!
そうだな…とりあえず、白チャートからやろうかな。
来週までに本屋さんで買っといてくれる?」
「わかりました。あ、ちなみに…
白チャートってどんな参考書ですか?」
「…えっとね……ちょっと待ってね。
あ、あったあった。これ。」
先生が検索画面を見せてくれようとスマホを
オレに寄せてくれたので、少し近づいて
スマホの画面を一緒に覗き込むと
普段、教室にいたときは感じたことのない
微かな匂いが鼻孔をくすぐった。
「ノートより、サイズは小さいけど…」
麻生先生は
そんなオレの動揺に全く気付く気配もなく
桜色のマニキュアが丁寧に塗られた指先で
画面をスクロールさせて続ける。