第3章 【生活(仮)】
髪を切り終えて、
そのままご機嫌でスーパーに向かう。
莉菜から頼まれたものを購入し、
自宅までの道すがら小さい花屋を見つけた。
あれ……
こんなとこに花屋なんてあったっけ…。
いつも通る道のはずやのに、普段
自分の興味あるもん以外、全然見えてないんやな…
そんなことを思いながら店内に入る。
無造作に並べられたバケツには
色とりどりの花がたくさん咲き誇っとるけど、
オレがわかる花は片手で数えられるほどしかなくて。
「いらっしゃいませ! プレゼントですか?」
「…あ、はい。あ、でも…
大げさなプレゼントやなくて…。」
「…奥様にプレゼントですか?」
「あぁ…、はい、そんな感じ…です。」
………奥様。悪ないなぁ…
いや、むしろすごい、ええやん…。笑
そうやな、いつかはほんもんの奥様に
なってもらえるように頑張るわ、オレ。
「奥様の好きなお色とかお花ございますか?」
「色は…多分、薄い紫とか。青とか…ですかね?
好きな花は…、ちょっと、わかんないです…。」
そんな曖昧なことしか答えられんかったオレは、
莉菜のことで知らんこと、まだまだ
たくさんあるんやなぁ…。って反省したりする。
そんなオレの目に留まったのは
凛とした佇まいの紫色のバラ。
「あ、この薄い紫のバラ、入れてください。」
莉菜の好きそうな色の
かろうじて知っていた花をオーダーする。
「素敵ですね。紫のバラには尊敬とか、感謝という
花言葉がありますので、奥様にプレゼントするには
ピッタリのお花だと思います。」
花言葉…そんなんあるんやな。
ちっこい白い花の添えられた花束を
少し、照れながら受け取る。
今までは花を贈るオトコなんてって
ちょっと、心のどこかでバカにしてたんやけど。
ド派手なんやなくて、日常に贈る花束は
人をこういう気持ちにさせるんやなって。
初めて感じるこそばゆい幸せに浸っては
莉菜も同じように
ここにある幸せを感じてくれたらええな…、
なんて期待を膨らませながら、
キミの帰りを待つ。
「ただいまー!」
キミの今日はどんな一日やったんかな。
いい日になっとったらええけど…
そんなことを思いながら
花束を後ろ手に隠して玄関に迎えに行く。